豪商からの伝言

江戸時代の近江商人に学ぶ顧客満足経営のビジネスモデル

豪商に学ぶ

江戸時代における大名と豪商の関係

 未曾有の不況に喘いでいる日本の姿は、江戸時代と重なって見えるところが少なくない。江戸時代と一口に言っても、その270年の歴史は一様ではない。
成長を続けたのは、元禄時代をピークにした前半の約百年間だけである。「享保の改革」を境に成熟期に入り、田沼時代に殖産振興を試みるが挫折。
 さらに「寛政の改革」、「天保の改革」と必死の立て直しを試みるが、それにも失敗。まもなく徳川幕府は崩壊してしまう。
 それは、鎖国政策のもと、「士農工商」という厳然たる身分制度のなかで、農業を基盤にした幕府・諸藩の経営が、都市化、商業化、貨幣経済の進展により破綻し、主導権が「士」から「商」へと移行した歴史であった。
 そして、幕府の政策が農業から商業・鉱工業などの新産業への構造転換がうまく機能せず崩壊していった過程でもあった。  企業は時代により、盛衰を繰り返している。それは江戸時代においても同じである。豪商と呼ばれる商人が、日本に本格的に登場し活躍するのは、江戸時代に入ってからだが、その多くは「長者に二代なし」と言われたように、没落していく。
 そのなかで、「老舗」として歴史を重ね、盛業を誇っていく店もある。なぜ、このような違いが生まれたのかー。
 「江戸時代」という時代に、豪商と呼ばれた商人は、どのように生き、経営してきたのだろうか。
士農工商
 江戸時代は、日本の経済・商業の発達の歴史であり、その過程で商人が力をつけ、武士が窮乏していく歴史でもあった。
 儒学者・太宰春台が「経済録」に、
 「今の世の諸大名は、大名も小名もみな頭をさげて町人に借金をせがみ、江戸・京都・大坂などの豪商をたのんで、その援助を受けて財政をまかなっている。
 自分の領地の年貢収入をすべて借金の返済にあて、年貢の収納期には金貸商人が大名の米倉を押さえてしまう状態にある」
 と書いた文章に象徴されている。
 また、五代将軍・綱吉にも講義した荻生徂徠は著書「政談」の中で、農業さえ大切にしていれば、工業・商業などはどうでもいい。これは昔からのすぐれた人の教えであると述べ、
 「武士と百姓は田地で生活するより他にない定住者であるから、不都合のないようにしなければならない。しかし、商人は不安定な生活で世間を渡っているのだから、その店が潰れようが気にすることはない。これは世の中を治めるための原則である」 と書いている。
 このような見方は、江戸時代を通じて変わっていない。海外事情など新知識の吸収にも熱心だった経世家・林子平でさえ、
 「町人は、ただ他人の禄を吸い取るばかりで、他に何の益もない者である。実に無用の穀つぶしである」
 と、ひどい言い方をしている。
 幕府は、農業を基盤に財政政策を運営していたが、農業だけでは幕藩体制を支えることが出来なくなっていた。それは、「身分制度」と「鎖国政策」という「規制社会」の限界を示していた。
「町人考見録」
 支配階級である武士は、商人とどんなつき合い方をしていたかー。
 その関係を、商人の立場から赤裸々に記したのが、三井総本家三代目・高房がまとめた「町人考見録」である。
 京都で一番の両替屋であった両替善六は、 「すべて大名方に出入りする町人には、富裕なときは、大名がたくさんの扶持を与え、それで屋敷にしばりつけるが、その町人の身代が傾きはじめると、その扶持や援助米も少なくなって、後にはそれもいつとはなく取り止めになるのである。
 つまり餌を与えて身代を釣るというやり方であるから、くれぐれも大名家からは少しの援助米や扶持などは受けないようにすべきである。
 この両替屋・善六も、森家(津山藩)から扶持を受けていたため、家来の名目が立ったので、家来が主君を訴える法はなく、多額の貸付銀はそのままになり、自身もそれを苦にして死んでしまった。なんと愚かなことではないか。
 武士は、計略をめぐらして勝つことを第一としている。それが武士のつとめである。町人が適当なところを見計らって金を儲け、残金を捨てて利益を得ようと思っても、武士は四民の頭で智謀兼備の役人であるから、町人の手の内はお見通しで、かえって裏をかき、先手をとり、町人から適当に借金しておいて返済ことわりを申し出る。
 ちょうど町人が竹やりで武士の真剣に対抗するようなもので、相手にはならない」 といった事情で没落。
 京都で一、二を争う金持と評判だった袋 じょうこ           
屋常皓・弟与左衛門の兄弟も、
 「因幡の松平右督殿(鳥取藩主)へすべての財産を貸し付け、その上のちには調子に乗って、他人から金銀を借りてまで注ぎ込んだところ、例のように返済を断られたため、家屋敷も債権者たちに取られて潰れてしまった」。
 「町人考見録」は、幕府、大名との取り引きや大名貸しにより、豪商が没落していった顛末を書いた三井家門外不出の書であった。

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